私の不登校体験 ~闇から光へ~

体験談

始まり

私が不登校になったのは中学2年生の夏休み明けからでした。その日、学校に向かう途中で突然、足が重くなり、動けなくなってしまったのです。何か理由があったわけではありません。ただ、学校に行くことが怖くて仕方がなくなったのです。

それまでの私は、どちらかというと明るい性格で、成績も中の上くらい。特に目立つわけでもなく、かといって孤立しているわけでもない、ごく普通の生徒でした。いじめられていたわけでもなく、先生との関係も悪くはありませんでした。

しかし、その日を境に、私の日常は一変しました。

混乱と苦悩

最初の1週間は、両親も学校も様子見の態度でした。「体調を崩したんだろう」と思われていたようです。しかし、1週間が過ぎ、2週間が過ぎても学校に行けない状態が続きました。

両親は心配し始め、毎日のように「どうして学校に行けないの?」と聞いてきました。でも、私にも理由がわかりませんでした。ただ、学校のことを考えると胸が締め付けられ、息ができなくなるような感覚に襲われるのです。

先生が家庭訪問に来るようになりました。優しく声をかけてくれましたが、それが逆に重荷になりました。「みんな心配してるよ」「早く学校に来てね」という言葉が、プレッシャーになったのです。

クラスメイトからのLINEも増えました。最初は「大丈夫?」「待ってるよ」といった励ましのメッセージでしたが、次第に「なんで来ないの?」「サボりじゃないの?」といった冷たい言葉も混ざるようになりました。

私は自分を責め始めました。「なんでこんなことになったんだろう」「自分は弱い人間なんだ」「みんなに迷惑をかけている」。そんな思いが日に日に強くなっていきました。

孤独と閉じこもり

2ヶ月が過ぎた頃には、完全に引きこもり状態になっていました。昼夜逆転の生活で、昼間は寝て、夜はスマホでSNSを見たりゲームをしたりして過ごしていました。

外出することもほとんどなくなりました。外を歩いていると、「あの子、学校サボってるんじゃない?」と言われているような気がして、人目を避けるようになったのです。

家族との会話も減りました。両親は最初こそ心配して声をかけてくれましたが、次第に諦めたような態度になりました。弟とは以前から仲が良かったのですが、彼が学校に行っている間、私は一人で家にいることが多くなり、会話する機会も自然と減っていきました。

この時期が一番辛かったです。誰とも話さず、何もせず、ただ時間が過ぎるのを待っているような日々。自分が生きている意味すらわからなくなりました。

転機

そんな日々が半年ほど続いた頃、一つの出来事が転機となりました。

ある日、母が私の部屋に来て、一冊の本を差し出しました。不登校経験者が書いた体験記でした。母は「読んでみて」と言うだけで、それ以上何も言わずに出て行きました。

最初は気が進まず、本棚に放置していました。しかし、数日後、何となくページをめくってみると、そこには私と同じような悩みや苦しみが書かれていました。「自分だけじゃないんだ」という思いが、少し心を軽くしてくれました。

その本をきっかけに、私は不登校に関する情報を集め始めました。インターネットで検索したり、図書館で関連書籍を借りたりしました。そこで知ったのは、不登校は決して珍しいことではなく、様々な理由や背景があること。そして、不登校経験者の多くが、それぞれの方法で自分の道を見つけていったということでした。

小さな一歩

情報を集めるうちに、私は地域にフリースクールがあることを知りました。不登校の子どもたちが集まり、自分のペースで学んだり活動したりする場所です。

最初は躊躇しましたが、両親に相談し、見学に行くことにしました。久しぶりの外出で、緊張で胸がドキドキしました。しかし、フリースクールのスタッフは温かく迎えてくれ、そこにいた子どもたちも自然に接してくれました。

見学後、私はフリースクールに通うことを決めました。最初は週に1回、2時間だけ。それでも、家から出る理由ができた喜びは大きかったです。

フリースクールでは、勉強だけでなく、料理や音楽、アートなど様々な活動がありました。私は特に料理に興味を持ち、みんなで協力して昼食を作る活動を楽しみにするようになりました。

新たな発見

フリースクールに通い始めて3ヶ月ほど経った頃、私は自分の中に小さな変化を感じ始めました。

以前は、「学校に行けない自分」を否定的に捉えていましたが、フリースクールで出会った仲間やスタッフとの交流を通じて、「学校以外の場所で学び、成長することもできる」という考えに至ったのです。

また、料理を通じて、自分にもできることがあるという自信が芽生えました。みんなで作った料理を「おいしい」と言って食べてくれる仲間の笑顔を見ると、心が温かくなりました。

この頃から、家族との関係も少しずつ改善していきました。フリースクールでの出来事を話すようになり、両親も私の変化を喜んでくれました。弟とも、久しぶりに一緒にゲームをしたり、話をしたりする時間が増えました。

新たな挑戦

フリースクールに通い始めて半年が経った頃、私は一つの決心をしました。料理の道に進みたいと思ったのです。

フリースクールのスタッフに相談すると、地域の料理教室を紹介してくれました。週に一回、大人向けの教室に参加することになりました。

最初は緊張しましたが、料理を通じて様々な年代の人と交流する中で、自分の世界が広がっていくのを感じました。また、自分より年上の人たちと話すことで、将来の選択肢についても考えるようになりました。

この頃には、以前のように外出を恐れることもなくなっていました。料理教室に行く途中、たまに制服姿の中学生とすれ違うこともありましたが、以前のような焦りや罪悪感はありませんでした。「自分には自分の道がある」という思いが、少しずつ強くなっていったのです。

進路の決定

中学3年生の終わり頃、進路を決める時期が来ました。両親や先生からは、高校に行くことを勧められました。しかし、私の中では別の選択肢が芽生えていました。

調べてみると、料理の専門学校に高校卒業資格が取得できるコースがあることがわかりました。そこなら、好きな料理を学びながら、高校卒業と同等の資格も得られます。

両親に相談すると、最初は戸惑っていましたが、私の決意を聞いて理解してくれました。学校の先生も、私の選択を応援してくれました。

新たな出発

そして春、私は料理の専門学校に入学しました。

入学式の日、久しぶりに制服を着ました。鏡に映る自分を見て、不思議な気持ちになりました。1年半前、学校に行けなくなった日のことを思い出しました。あの時の私は、こんな日が来るとは想像もしていなかったでしょう。

専門学校での生活は、想像以上に充実していました。好きな料理を学べる喜びはもちろん、同じ目標を持つ仲間との出会いも大きな励みになりました。

時には課題に追われて大変なこともありましたが、そんな時は不登校だった頃の経験が力になりました。「自分のペースでいい」「焦らなくていい」という気持ちが、私を支えてくれたのです。

振り返って

今、不登校だった頃を振り返ると、あの経験が無駄ではなかったと感じます。

確かに辛い時期もありました。しかし、その経験があったからこそ、自分と向き合い、本当にやりたいことを見つけることができたのだと思います。

また、不登校を経験したことで、人それぞれに合った道があることを学びました。「普通」とされる道だけが正解ではない。自分に合った方法で、自分のペースで進んでいけばいいのだと。

今の私には、将来の夢があります。いつか自分のレストランを開くことです。その夢に向かって、一歩一歩進んでいます。

不登校を経験した人たちに伝えたいことがあります。今、辛い思いをしているかもしれません。でも、必ず道は開けます。焦らず、自分のペースで進んでいけばいいのです。そして、周りの人のサポートを受け入れることも大切です。一人で抱え込まず、誰かに相談してみてください。

最後に、私をサポートしてくれた両親、先生方、フリースクールのスタッフ、そして出会ったすべての人たちに感謝の気持ちでいっぱいです。皆さんの支えがあったからこそ、今の私がいます。

不登校は終わりではなく、新たな始まりになり得ます。それは、自分自身を見つめ直し、本当の自分を発見する機会にもなるのです。